聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜
「わたくしに心を開いてくれる日が楽しみですわ」
 うっとりと、ムチを抱きしめた。
「そんな日は来ない」

「強がりをおっしゃる姿もかわいいですわ」
「俺の心までは支配できない」

「支配ではなく、愛ですわ」
「必ず軍がここを探し出す。お前は死刑になるぞ」

「わたくしは第一王子殿下の婚約者です。めったなことでは捕まりませんし、処罰も受けません。証拠はすべて消しましたわ」
「いや、まだ消せていない」
 アルウィードは不敵に笑みを浮かべた。

「どういうことですの」
 彼は答えない。

 これは動揺を誘うためのはったりでしかない。
 証拠にもなる彼の一番大切なものは、ロレッティアの絶対に手の届かないところ、あちらの世界に無事に送り返した。
 だから証拠は――証人は存在するが、こちらにはない。

「あの女のことを言っていますの?」
 ロレッティアは顔を険しくした。が、すぐに気を取り直して笑顔を見せる。

「問題ありませんわ。必ず探し出して始末いたします」
「バレたら君だけの問題じゃない、家族も親戚もどうなるか」

「構いません。それだけ私の愛は大きいのですから」
「自分勝手の間違いだろ」

「どう思われようと構いません」
 ロレッティアはアルウィードの耳に唇を寄せた。

「そもそも脅しになってませんわ。すでにわたくしは法を犯しているのです。でもこれは貴方の罪でもありますわ」
 幼いロレッティアの心を奪った罪。
 あのことがなければこのような焦燥も激情も感じずにすんだのに。

「黒幕は誰だ」
「お教えするとお思い?」

「利用されているぞ」
「わたくしも彼らを利用しました。お互い様というものです」

「最後はお前を主犯として差し出すだろう」
「そのときは貴方に天国へご一緒していただきますわ」

 ロレッティアがムチを握って微笑んだそのとき。
 ドアが激しくノックされた。

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