聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜
「入ったはいいけど、どうするんだ」
 誰もいない博物館は静かで、蓮月の声は思いのほか大きく響いた。

 壁にかかっている魔石のランタンは、無人の館内をほんのり照らし続けていた。進むたび、薄い影が出来ては通り過ぎていく。

「さっきの魔法で全員を移動させれられないか」
「今の俺には一人が限界だった」
 答えるアルウィードの声には隠しきれない疲労があった。

 どこからか犬の遠吠えが響く。
 不吉な気がして、三千花はぶるっと震えた。

 ふと彼女を見た蓮月の目に、持っているものが映る。
「そんなものどうするんだ」
 でかい塩コショウボトルだ。

「なんか、つい」
 三千花は火事のときに枕を持って逃げる人の気持ちがわかるような気がした。

「料理でもすんのかよ」
 蓮月はうんざりと吐き捨てる。

「そもそも俺関係ないよね。どうしてこんな目に」
「ごめん。刑事さんならこういう事件も得意かと思って」
「んなわけねーだろ」

「さっきから聞いていればお前」
 アルウィードが蓮月を睨む。
「三千花にそんな口をきくな」

「はあ?」
 蓮月は鼻に(しわ)を寄せた。
「また縄で縛ってやろうか」
 アルウィードが手を構える。
「そんな余力もないくせに」
「楽勝だ」

「やめてよ二人共」
 三千花が止める。

「ライエルさんが城に戻ったなら、私達の場所も伝わるよね? 助けがくるまで待つ?」
「追跡者のほうが早い。……武器がほしいな」
 アルウィードが言う。

「そうだ」
 三千花はあるものを思い出す。現在地からそれがある場所は近い。

「こっちに」
 三千花は二人を誘導した。

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