聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜
 あちら(・・・)で使っている拳銃なら、迷いはなかっただろう。
 だが、この銃に対しての信頼が彼にはない。

 果たして本当に撃てるのか。
 自分の命が危うくなるのに。

 市民を守り、犯人を捕まえるために警察官になったのに。
 いざというときは自分の命を捨ててでも、と日頃から思っているのに。

 本当にその場面がくると、こんなにも怖いのか。
 蓮月は震えを抑えることができなかった。

 刑事になったらばんばん犯人を逮捕するぞ、と子供の頃は夢見ていた。現実は地味な仕事の積み重ねだ。書類仕事も多い。

 だが、ドラマのような派手な事件でなくても被害者が犯人から受けた仕打ちにショックを受け、嘆き、生活すら一変することが少なくない。

 事件であれ事故であれ、警察官のように冷静に判断して処理する存在は必要だ。

 時に非情にもなり、法にのっとって行動する。それを犯人に利する行為だと非難されることもある。だが、情に流されて法を超えた行為をすれば、それこそが秩序の崩壊を招き、犯人に利することになりかねない。

 市民の力になれなくて落ち込んだこともあるし、力のない自分が悔しくてたまらないときだってある。

 それでも、彼は前を向き続けた。守るべき存在のために。

「……名を聞いていなかった」
 アルウィードが言う。

「氷川蓮月だ」
「蓮月、貴殿の勇気を誇りに思う」

「王子様らしい上から目線だな」
 蓮月は口の端を吊り上げた。笑った――つもりだった。
 アルウィードはニヤリと笑って返した。

< 285 / 317 >

この作品をシェア

pagetop