聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜
 薄暗い神殿の中、入口からの光を背にアルウィードが歩いている。
 三千花は妙に眩しく感じた。

 全員がいっせいに頭を軽く下げる。
 慌てて三千花もそれにならった。

「続けてくれ」
 アルウィードが言うと、彼らは深く一礼して作業に戻った。

 アルウィードは三千花と晴湖の前で立ち止まった。三千花はなんだか緊張してしまい、顔を上げられない。

「聖母候補殿」
 アルウィードは晴湖に話しかけた。

「俺が送ってあげられたら早かったのだが、いろいろたてこんでいて、すまない」
「お気遣いありがとうございます」
 晴湖は足を引いて軽く頭を下げた。

「三千花」
 アルウィードは三千花を見た。彼女はまだ顔を上げられない。

「ドレス、似合ってる」
 アルウィードの優しい声。

 三千花はそれだけでもう胸が高鳴った。心臓が飛び跳ねて回っているかのように、鼓動が激しくなる。

 気をきかせたのか、晴湖とエミュリーがさりげなくその場から立ち去る。

 ああ、行かないで。
 三千花は思うのだが、言葉にできない。

 人前だからか、アルウィードは抱きしめもしないし、キスもしない。
 彼女を見つめている、その視線は感じた。

「君がここにいてくれる、それだけで俺は幸せだ」
 三千花はさらに顔を上げられない。顔が熱い。絶対に真っ赤になっているに違いない。

 最初にこちらの世界に来たときとは違う理由で、急激に帰りたくてたまらなくなった。
 少し離れたところで、晴湖はにこにこしながらそれを見ていた。

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