聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜
三千花は逃げるように窓へ向かった。
窓を開けると、やはり外は見慣れない景色のままだった。明るい日差しのおかげで、昨日は見えなかった遠い場所までよく見える。三千花の見知った景色は全く存在しなかった。
――やはり、戻るのはムリなのか。
そう考える彼女の横に、アルウィードが立った。
「この世界には、魔法がある」
三千花は怪訝に思って彼を見た。
「ほぼすべての人が魔法を使う。魔力には差がある。庶民の魔力は弱いから大した魔法は使えないが、生活に密着して使われている」
魔法のある生活が、三千花には想像できない。
「王族や貴族は魔力が強い場合が多い。とはいえ異世界転移の術を使える人間はわずかだ。この城を逃げ出しても君は帰ることなんてできない」
アルウィードが三千花を見る。彼女は不機嫌に目をそらした。
「ここで俺の妻になるのが現実的だ。子供を作ったら君の世界にも帰れるようにしよう」
「そんな無茶な」
昨日は無断外泊になってしまった。さぞかし両親が心配していることだろう。さらに今日は無断欠勤になってしまう。
「ここを逃げ出して城下町で不審者として暮らすか? 家もなく仕事もなく。魔法を使えない上に身元保証人もいない君を雇うところはないだろう。娼館なら別だが」
「しょうかんて……」
まさか商館ではないだろうし、三千花は顔を曇らせる。
「娼婦のいる館。君の世界にはなかったのか?」
なんて答えたらいいのかわからず、黙る。
「比べてみろ。逃げ出して苦しく生きる毎日と、ここで俺の妻になって幸せに生きるのとどちらがいいか」
「どっちも嫌」
即答する三千花に、アルウィードは苦々しい表情を浮かべた。
「今の君は世界の運命を握っている。迂闊に外に出ると襲われ殺される。大人しくここにいろ」
もはや脅迫だが、それは果たして本当なのだろうか。