聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜





 アルウィードがいなくなり、三千花はほっと息をついた。
 だが、知らない女性と二人きりになったのが気まずい。昨日も顔だけ合わせて帰ってしまったし、ドレスの着替の時もお互いに名乗らなかった。

「えっと、お名前を教えていただけますか?」
 話しかけると、女性は眉間にシワを寄せた。
 え、私、何か変なこと言った?

「エミュリー・ホン・オラムル。三級貴族でございます」

 サンキューキゾク?
 頭の中に焼き鳥の居酒屋が思い浮かぶ。注文したら、ヘイサンキュー! と返事する感じの。が、すぐにそんなわけないと思う。

 改めて見る彼女は少し勝ち気な表情のかわいい少女だった。鳶色の目がぱっちりしている。まっすぐに伸びた長い赤茶の髪は、彼女を明るく彩る。

「私は三千花です。鈴里三千花」
 自分も名乗る。
「教えて頂いてありがとうございます。聖母様」
 エミュリーは慇懃無礼(いんぎんぶれい)の見本のように答えた。

「聖母様ってやめてもらえませんか」
「そんなわけには参りません、聖母様」
「でも、私は聖母じゃないし」

「聖母じゃないならなぜここに?」
「それはあの王子とやらに聞いて貰わないと」
「殿下に対してなんて失礼な!」
「ええ……」
 急に怒るエミュリーのテンションについていけない。

「とにかく! 名前で呼ぶなど恐れ多いことはできかねます」
 エミュリーは断言した。

 名前で呼ぶ以上に失礼なことされてる気がするんだけど。
 三千花の味方はここにはいないようだった。

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