聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜
「エミュリーさんが散歩に行こうって誘ったんです。着替えてしまえばわからないとか言って」
「そんな、聖母様、ひどいです」
 よよよ、と泣くような素振りを見せられ、余計にイラつく。

「あなたは自分の立場をわかっていない。聖母様がどこのご出身なのかは関係ない。国の重要人物でいらっしゃる。あなたが聖母様の侍女に選ばれたのは、急なことで人がいなかったからに過ぎない」
 冷たく厳しい声だった。

「たまたますでに侍女として働いており、どこの派閥(はばつ)にも所属しておらず、異動ができた。ただそれだけの理由だ。三級貴族程度で聖母様より上に立ったつもりでいるのか」
 エミュリーはすっかり縮こまっていた。

「一人で侍女を務めるのは大変だろうことは同情する。だからといって何をやっても許されるわけではない」

 三千花は知らなかったが、王城では普通は侍女は一人で務めるものではない。数人がつき、リーダーとなる侍女長が存在する。
 だが、三千花が来たのが急だったため、彼女を担当する侍女が一人しかいないのだ。

「まともにお仕えできないようならクビですね」
 あきれたようにリグロットが言う。

「そんな、それだけは……」
 エミュリーは泣きそうな顔で彼にすがる。
 リグロットは彼女を睥睨(へいげい)した。

 クビ、という発言に三千花は動揺した。ちょっと困ればいいと思いはしたが、いきなりクビとは。

「お願いです、父も母も私が王宮でお勤めすることを喜んでくれました。聖母様にお仕えしてすぐにクビだなんて、両親になんて言えばいいのか」
 三千花は自分の両親を思い出す。就職したときには喜んでくれた。それがある日突然、クビになりました、なんて。

「ちょっと、一回だけチャンスあげようよ」
 三千花はついそう言ってしまった。


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