旦那様は仏様 ~もっとイチャイチャしたいんです~
「美咲さんが初めてこの家に来た日。私はずっと迷っていました。私の性行為に関する考えを伝えるべきか否か」

 同じ話なのだと確信に変わる。だが、この先の展開が同じかはわからない。美咲は同じでありますようにと願いながら聡一の話に耳を傾けた。

「子供のことを考えてから進みたいというのが私の本心です。ですが、過去の経験から、それを正直に告げていいものか迷いました。もしかしたらまた同じ道を歩むことになるかもしれないと思ったんです」

 先ほど聞いた聡一の話を思いだす。聡一はまた同じように別れの道を辿るのではないかと心配になったのだろう。

「結婚はしたのだし、避妊をすればその可能性は低くなるのだから、野暮なことは言わないほうがいいのかもしれないとも思いました。けれど、それは自分に嘘をつくということで……それでは嘘くさいと言われた言葉を現実にしてしまうと気づきました。だから、最初にあの話をしたんです」
「はい」
「その話をしたときのあなたから嫌悪感のようなものは感じられなくてほっとしました。きっとわかってくれただろうと」
「そうですね。私は聡一さんが私を思いやってくれてるってわかって嬉しかったですから」
「美咲さんが嫌な思いをしていなくて本当によかった。でも、あなたはとても恥ずかしがってもいましたね。それに緊張もしていた」
「すみません」
「いいえ。私はそんなあなたを見て、これからの関係をゆっくり進めようと思いました。もちろん性行為に限らずいろいろな触れ合いを。私は美咲さんが何よりも大事だから、あなたを傷つけるようなことはしたくなかった。本当にあなたがそうしたいと思えたときにこそ進みたいと思ったんです」

 聡一はずっと美咲を気遣ってくれていた。本当に美咲のことを大事に思ってくれていたのだろう。
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