ブラックコーヒーに角砂糖一つ
京子が夕食を作っているのを見ながら俺は窓際に立った。 「あんまり覗かない方がいいわよ。 睨まれるから。」
「それもそうだな。」 俺がキッチンに目をやった時だった。 パーンという音がしたのだ。
「何だ?」 「誰かやられたみたいね。」
「暗くて見えないなあ。」 「明日になればニュースになるわよ。」
「それはそうだけど、、、。」 マーガレットは大騒ぎになっているようだ。
入り口付近に誰かが倒れているのが見える。 そして中から女が出てきた。
「ママじゃないか。 どうしたんだろう?」 「やけに落ち着いてるように見えない?」
「そう言えば、、、。」 ママはあれこれと周りに指示している。
男たちが倒れている男を何処かへ運ぼうとしている。 そこへ黒塗りの車が到着した。
「何だ お前たちは何をしているんだ?」 「こいつがママを誘惑してたから消したんだよ。」
「馬鹿だなあ。 こいつは俺の弟だぞ。」 「組長、、、。」
「お前、弟と知らずにやったんだな? 始末を付けてもらおうか。」 「そんな、、、。」
黒塗りの車から降りてきたのは現組長の孝彦である。 そして倒れていたのはその弟 儀一だった。
男たちが打った男を事務所にでも連れて行くのか、車に押し込もうとしているのが見える。
「組長さん 来たみたいね?」 「ああ。 その地均しをしていたのは弟だったんだね。」
「あの弟はこの辺には住んでないわよ。 だから誰も知らなかったのね。」 「この辺に住んでないって?」
「そうよ。 いつもは大阪だったかな、、、。 浪速区かどっかに家を持ってるわ。」 「何で知ってるんだ?」
「まあ、何でもいいじゃない。 私だっていろんな情報を掴むことは有るのよ。」
京子は澄ました顔でコーヒーを飲んでいる。 (うちに来る前は何をしてたんだろう?)
気にはなるが問い詰めるわけにもいかない。 今はずっと俺を支えてくれているんだから。
マーガレットはまた静かになった。 そしてカーテンが開けられたらしい。
店内の明るい様子が見える。 男たちの笑っている様子も見えている。
この店、喫茶店なのにウイスキーなども出しているって聞いたことが有る。 それで一度、巡回中のお巡りに調べられたんだっけ、、、。
「誤解の無いようにお願いしますよ。」 お巡りはそう言って立ち去ったという。
それにしても今夜のマーガレットは賑やかそうだ。 組長が来ているからなのか?
「組長もたまには来てるみたいね。」 「そうなの?」
「半年に一回はあの車を見るわよ。」 そりゃあ顔くらいは出すだろう。
何てったって自分が可愛がってる女がママをしてる店なんだから。 それにしてもタイミングがいいのか悪いのか、、、。
「これじゃあ帰るのは大変そうだな。」 「泊っていけばいいじゃない。」
「そうだとは思うけど、、、。」 「もう夜よ。 奥さんも寝てるんじゃないの?」
「かもなあ。」 「それにさあ、似合うようなパジャマも買ってきたから。」
京子は奥の部屋に行くと袋を持って出てきた。 (着てみて。)
袋から取り出したパジャマを言われるままに着てみる。 「いいね。」
「でしょう? 今夜は泊っていって。) 「分かった。 そうするよ。」
マーガレットは気になるけれど、眠気も襲ってきてるし、京子に誘われるままに俺もベッドに入った。
翌日、電子版のニュースには桜田組若頭の射殺事件が報じられていた。 撃った男は事務所で死にたくなるくらいに責め抜かれたようだ。
この若頭はどんな男だったのか? 大阪に居たこと以外は全て伏せられている。
どんな仕事をしていたのか、どんな人間と付き合っていたのか、桜田組では何をしていたのか、、、、?
しかし大阪に住んでいたことをなぜ京子が知っているのか? 謎が謎を呼ぶ事件である。
だからといって京子が組に関わっていたとは思えないんだ。 影が無い。
マーガレットは閉店時間を越えて賑わっているようだ。 こんな夜には一般の客は来ないだろう。
来たら大変だよな。
翌日、俺は用事を作って仕事を休むことにした。 そうじゃないと家に帰れないから。
呼び付けたタクシーの運転手もどっか緊張している。 「夕べ、殺人事件が有ったんだってね。」
「そうなんですよ。 びっくりしました。」 「警察は来たのかな?」
「さあ、どうなんだろう? 撃った男も組内で蹴りを付けさせられたんだろうし、、、。」 「怖いなあ。 やくざとは関わりたくないもんだ。」
「関わらないに越したことは無いでしょうね。 あんなんに関わったら最後だ。」 マンションを離れてタクシーはスピードを上げた。
俺はどうも桜田組の動きが気になって仕方がない。 「そんなの気にしてどうするのよ?」
「何となくね、、、。」 「興味だけなら関わらないほうがいいわよ。 狙われたら最後だから。」
「それもそうだが、、、。」 「あの弟のことね?」
「ああ。」 「それだったら心配無いわよ。 ここじゃあニュースにもならないわ たぶん。」
「ニュースにならない?」 「だって組長が居るのよ。 そのお膝元で弟が殺されたなんて言えないわよ。」
「それもそうだ。 確かにな、、、。」 朝から俺と京子はそんな話をしていたのだ。
そしてあのママ。 何処に住んでいるのか分からない時期が有る。 マーガレットを開店したのは20年前。
その前、10年ほどは何処で何をしていたのか不明なのである。 しかし人間というやつは謎が有れば有るほど興味を惹かれるらしい。
されど、ママについても関わらないほうが賢明らしいね。 組長の愛人なのだから。
俺は昨夜の京子の余韻を引きずったままで家に帰ってきた。
妻はと言うと朝食を作り置きしてから出掛けたらしい。 居間のテーブルには味噌汁と漬物が載せられていた。
今日は会社も動いているはず。 ところが俺としたら、、、。
「社長が居なくてもなんとかやって見せますよ。」 経理部長の横田直美が胸を張る。
だから全てを彼女たちに任せて家に籠ることにした。 清算しなければいけない支払いも残っているし、売り上げの計算も進んでいる。
月末に向けてプラスマイナスの判断もしなきゃいけない。 難しい所だが、、、。
会社の周囲ではこれという動きも無いままに静かな朝を迎えたらしい。
あの縄文遺跡展示館も鳴かず飛ばずで静かなままだ。 時々は小さなイベントをやっているらしいが、、、。
それでたまに古風な浴衣みたいなやつを注文されることが有る。 デザインに合わせて作ってくれってね。
まあ売り物ではないのだから損失の心配は無い。 展示館から発注分の支払いは受けている。
相手は公的機関だからねえ。 町に頼み込んで予算を付けてもらってるんだろう。
テレビも点いてないものだから居間に居ても静かなもんだ。 京子も会社に出ているらしい。
お茶を飲みながらラジオを聞いている。 こっちのほうがニュースはよく入るからね。
すると、、、。 「喫茶店 マーガレットが突然閉店したそうです。」
抑揚の無いアナウンサーの声がニュースを伝えた。 「何で?」
何気ないニュースではあるがごく平凡な喫茶店の閉店をなぜニュースで伝える必要が有ったのか? 底知れぬ疑問が湧いてきた。
俺は何気に電話を取った。 「あら、社長 お目覚めですか?」
京子が白々しく攻めてくる。 「いやいや、気になるニュースが、、、。」
「ああ、マーガレットの閉店ね?」 「知ってたのか?」
「だって、マンションの真向かいでやってるのよ。 黙ってても分かっちゃうわよ。」 京子はコーヒーを飲みながら笑った。
「それもそうだな。」 「ラジオで聞いたの?」
「そうだよ。 わざわざ流す必要も無いだろうに。」
「警察を攪乱するためよ。」 「何だって? 警察?」
「そう。 明日にでもゆっくり話すわ。 でもね、これから桜田組が動きそうよ。」 「そうなのか。」
「私たちはあくまで一般人なんだから突っ込むのは止めましょうね。」 そこで電話は切れた。
後ろで誰かが呼ぶ声が聞こえた。
「それもそうだな。」 俺がキッチンに目をやった時だった。 パーンという音がしたのだ。
「何だ?」 「誰かやられたみたいね。」
「暗くて見えないなあ。」 「明日になればニュースになるわよ。」
「それはそうだけど、、、。」 マーガレットは大騒ぎになっているようだ。
入り口付近に誰かが倒れているのが見える。 そして中から女が出てきた。
「ママじゃないか。 どうしたんだろう?」 「やけに落ち着いてるように見えない?」
「そう言えば、、、。」 ママはあれこれと周りに指示している。
男たちが倒れている男を何処かへ運ぼうとしている。 そこへ黒塗りの車が到着した。
「何だ お前たちは何をしているんだ?」 「こいつがママを誘惑してたから消したんだよ。」
「馬鹿だなあ。 こいつは俺の弟だぞ。」 「組長、、、。」
「お前、弟と知らずにやったんだな? 始末を付けてもらおうか。」 「そんな、、、。」
黒塗りの車から降りてきたのは現組長の孝彦である。 そして倒れていたのはその弟 儀一だった。
男たちが打った男を事務所にでも連れて行くのか、車に押し込もうとしているのが見える。
「組長さん 来たみたいね?」 「ああ。 その地均しをしていたのは弟だったんだね。」
「あの弟はこの辺には住んでないわよ。 だから誰も知らなかったのね。」 「この辺に住んでないって?」
「そうよ。 いつもは大阪だったかな、、、。 浪速区かどっかに家を持ってるわ。」 「何で知ってるんだ?」
「まあ、何でもいいじゃない。 私だっていろんな情報を掴むことは有るのよ。」
京子は澄ました顔でコーヒーを飲んでいる。 (うちに来る前は何をしてたんだろう?)
気にはなるが問い詰めるわけにもいかない。 今はずっと俺を支えてくれているんだから。
マーガレットはまた静かになった。 そしてカーテンが開けられたらしい。
店内の明るい様子が見える。 男たちの笑っている様子も見えている。
この店、喫茶店なのにウイスキーなども出しているって聞いたことが有る。 それで一度、巡回中のお巡りに調べられたんだっけ、、、。
「誤解の無いようにお願いしますよ。」 お巡りはそう言って立ち去ったという。
それにしても今夜のマーガレットは賑やかそうだ。 組長が来ているからなのか?
「組長もたまには来てるみたいね。」 「そうなの?」
「半年に一回はあの車を見るわよ。」 そりゃあ顔くらいは出すだろう。
何てったって自分が可愛がってる女がママをしてる店なんだから。 それにしてもタイミングがいいのか悪いのか、、、。
「これじゃあ帰るのは大変そうだな。」 「泊っていけばいいじゃない。」
「そうだとは思うけど、、、。」 「もう夜よ。 奥さんも寝てるんじゃないの?」
「かもなあ。」 「それにさあ、似合うようなパジャマも買ってきたから。」
京子は奥の部屋に行くと袋を持って出てきた。 (着てみて。)
袋から取り出したパジャマを言われるままに着てみる。 「いいね。」
「でしょう? 今夜は泊っていって。) 「分かった。 そうするよ。」
マーガレットは気になるけれど、眠気も襲ってきてるし、京子に誘われるままに俺もベッドに入った。
翌日、電子版のニュースには桜田組若頭の射殺事件が報じられていた。 撃った男は事務所で死にたくなるくらいに責め抜かれたようだ。
この若頭はどんな男だったのか? 大阪に居たこと以外は全て伏せられている。
どんな仕事をしていたのか、どんな人間と付き合っていたのか、桜田組では何をしていたのか、、、、?
しかし大阪に住んでいたことをなぜ京子が知っているのか? 謎が謎を呼ぶ事件である。
だからといって京子が組に関わっていたとは思えないんだ。 影が無い。
マーガレットは閉店時間を越えて賑わっているようだ。 こんな夜には一般の客は来ないだろう。
来たら大変だよな。
翌日、俺は用事を作って仕事を休むことにした。 そうじゃないと家に帰れないから。
呼び付けたタクシーの運転手もどっか緊張している。 「夕べ、殺人事件が有ったんだってね。」
「そうなんですよ。 びっくりしました。」 「警察は来たのかな?」
「さあ、どうなんだろう? 撃った男も組内で蹴りを付けさせられたんだろうし、、、。」 「怖いなあ。 やくざとは関わりたくないもんだ。」
「関わらないに越したことは無いでしょうね。 あんなんに関わったら最後だ。」 マンションを離れてタクシーはスピードを上げた。
俺はどうも桜田組の動きが気になって仕方がない。 「そんなの気にしてどうするのよ?」
「何となくね、、、。」 「興味だけなら関わらないほうがいいわよ。 狙われたら最後だから。」
「それもそうだが、、、。」 「あの弟のことね?」
「ああ。」 「それだったら心配無いわよ。 ここじゃあニュースにもならないわ たぶん。」
「ニュースにならない?」 「だって組長が居るのよ。 そのお膝元で弟が殺されたなんて言えないわよ。」
「それもそうだ。 確かにな、、、。」 朝から俺と京子はそんな話をしていたのだ。
そしてあのママ。 何処に住んでいるのか分からない時期が有る。 マーガレットを開店したのは20年前。
その前、10年ほどは何処で何をしていたのか不明なのである。 しかし人間というやつは謎が有れば有るほど興味を惹かれるらしい。
されど、ママについても関わらないほうが賢明らしいね。 組長の愛人なのだから。
俺は昨夜の京子の余韻を引きずったままで家に帰ってきた。
妻はと言うと朝食を作り置きしてから出掛けたらしい。 居間のテーブルには味噌汁と漬物が載せられていた。
今日は会社も動いているはず。 ところが俺としたら、、、。
「社長が居なくてもなんとかやって見せますよ。」 経理部長の横田直美が胸を張る。
だから全てを彼女たちに任せて家に籠ることにした。 清算しなければいけない支払いも残っているし、売り上げの計算も進んでいる。
月末に向けてプラスマイナスの判断もしなきゃいけない。 難しい所だが、、、。
会社の周囲ではこれという動きも無いままに静かな朝を迎えたらしい。
あの縄文遺跡展示館も鳴かず飛ばずで静かなままだ。 時々は小さなイベントをやっているらしいが、、、。
それでたまに古風な浴衣みたいなやつを注文されることが有る。 デザインに合わせて作ってくれってね。
まあ売り物ではないのだから損失の心配は無い。 展示館から発注分の支払いは受けている。
相手は公的機関だからねえ。 町に頼み込んで予算を付けてもらってるんだろう。
テレビも点いてないものだから居間に居ても静かなもんだ。 京子も会社に出ているらしい。
お茶を飲みながらラジオを聞いている。 こっちのほうがニュースはよく入るからね。
すると、、、。 「喫茶店 マーガレットが突然閉店したそうです。」
抑揚の無いアナウンサーの声がニュースを伝えた。 「何で?」
何気ないニュースではあるがごく平凡な喫茶店の閉店をなぜニュースで伝える必要が有ったのか? 底知れぬ疑問が湧いてきた。
俺は何気に電話を取った。 「あら、社長 お目覚めですか?」
京子が白々しく攻めてくる。 「いやいや、気になるニュースが、、、。」
「ああ、マーガレットの閉店ね?」 「知ってたのか?」
「だって、マンションの真向かいでやってるのよ。 黙ってても分かっちゃうわよ。」 京子はコーヒーを飲みながら笑った。
「それもそうだな。」 「ラジオで聞いたの?」
「そうだよ。 わざわざ流す必要も無いだろうに。」
「警察を攪乱するためよ。」 「何だって? 警察?」
「そう。 明日にでもゆっくり話すわ。 でもね、これから桜田組が動きそうよ。」 「そうなのか。」
「私たちはあくまで一般人なんだから突っ込むのは止めましょうね。」 そこで電話は切れた。
後ろで誰かが呼ぶ声が聞こえた。