魔法の使えない不良品伯爵令嬢、魔導公爵に溺愛される2

取り戻す意思

 イザークとエドワースが屋敷に入り、急いでレティシアの部屋に入ると、表情を失ったセシリアスタとメルヴィー、侍女のカイラとアティカがいた。レティシアと共にいた三人は、深々とセシリアスタに頭を垂れている。
「私が居たのにも関わらず、この様なことになって……本当に申し訳ありません」
「いえっ、私達がお嬢様をお守りしなきゃいけないのに……」
 その言葉に、アティカも頷いた。
「そうね。本来は私達がお二人をお守りするべきなのに、動けなかった……セシリアスタ様、処罰は私共が受けます」
「いや、三人とも悪くはないよ。即座に魔法便を届けてくれたんだし」
 イザークの声に、頭を垂れていた三人は顔を上げる。メルヴィーは驚愕の表情を浮かべていた。
「アイザック殿下!? 何故、此処に?」
「旧友のピンチに駆け付けたのさ。セシル、取り敢えず落ち着こう」
「……ああ」
 目を押さえながら、ふらふらとソファに腰掛けるセシリアスタ。そんなセシリアスタに、イザークは言葉を続ける。
「脅迫をしてきたのは向こうだが、自らユスターク家に行ってしまった以上、誘拐にはならない」
「……そう、だな」
「脅迫も、証拠がなければ無理だ」
 イザークの発言に、メルヴィーは声を荒げた。
「何故ですの! ここに三人も脅迫現場を見たものがいましてよ!?」
「三人の内、二人はこの屋敷の侍女だ。それに、魔道具を用いて記録してない以上、証拠としては不十分だ」
「そんな……」
 項垂れるメルヴィー。だが、イザークはにこりと微笑んだ。
「だから、別の路線からユスターク家にかちこみ出来る材料を用意しよう」
 別の路線……その言葉に、エドワースが口を開いた。
「カーバンクルか?」
「そう。調査隊を僕の権限で急いで編成させる。ユスターク領に生息するカーバンクルの様子をくまなく捜査、探索して、あのカーバンクルがどうやってユスターク家のものになったのかを徹底的に調べ上げる」
「時間はかかるが、それしか方法はねえか……セシル、それでいいか?」
 主の了承を得るべく、エドワースはセシリアスタに声を掛ける。セシリアスタは目を押さえたまま、動かなかった。そんなセシリアスタに、メルヴィーは喝をいれた。
「セシリアスタ様!! 何をなさっておられるのです! 早く動いてくださいまし! レティシア様を助けたいのでしたら、動くしか道はないのですよ!?」
「……そう、だな。メルヴィー嬢の言う通りだ」
 ゆっくりと立ち上がるセシリアスタ。その目は、レティシアを取り戻すという意思が込められていた。
「イザーク、すぐに調査隊の編成と出立を頼む」
「了解」
 そう言いながら、手紙を既に書き終えたイザークはエドワースに魔法便を飛ばさせた。
「エド、お前は……」
「調査隊に同行だろ? 俺がいた方が効率はあがるしな」
「済まない」
 そう言うセシリアスタに、エドワースはにっと微笑んだ。メルヴィー達の方に振り返り、セシリアスタは言葉をかける。
「アティカとカイラはレティシアが戻るまで待機だ。メルヴィー嬢、あなたは自宅へ戻って欲しい」
「お断りいたしますわ」
 即答するメルヴィー。キッとセシリアスタを睨み、口を開いた。
「私も調査隊に参加させてください。元輪と言えば、我が領地にユスターク家が入り込んだのが始まりです。もしかすると、ミルグ領のカーバンクルという可能性もあり得ます」
 困った表情を向けるセシリアスタからイザークの方へ向き直り、メルヴィーは言葉を続ける。
「アイザック殿下。調査隊を二つ編成してください。そして、私も調査隊に参加させてください。ミルグ領の調査も同時に行えば、その分効率的ですわ」
「うーん……本来、令嬢とはいえ一般人を調査隊に参加させるのは良くないんだけど……」
「ミルグ領でしたら、私がいれば領地内の調査許可を得なくとも行えます。利点はありますわ」
 諦める気がないメルヴィーに、イザークは「うん」と頷きエドワースの方を見た。
「エド、もう一通王宮に手紙を送って。調査隊を二つに増やそう。ジェーン伯爵令嬢も参加することも通告しておいて」
「了解」
 イザークの言葉に、メルヴィーは目を見開き「ありがとうございます!」と深く頭を垂れた。
「セシル、カーバンクルの調査が終わるまで、此方は動けない。それまでは、君も耐えてくれ」
「ああ、わかっている」
「トレスト領地には、僕の名前で許可をとればユスターク伯爵も従わざるを得ない筈さ」
 確かに、第三王子からの許可となれば無下には出来ない。どちらにせよ、調査が終えるまでには一週間はかかるだろう。
(それまで、どうか無事でいてくれ……レティシア……)
 窓の外を見つめながら、セシリアスタは心の底から強く願った。
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