魔法の使えない不良品伯爵令嬢、魔導公爵に溺愛される2

反撃の開始

 調査隊が編成され、ミルグ領とトレスト領のカーバンクルの生態調査が続けられていた。既に五日が経ち、セシリアスタの顔に焦りが浮かび上がっていた。
「セシル、はいこれ」
 執務室にお邪魔しているイザークが、わざわざ紅茶を淹れて持ってきてくれた。それに感謝しつつ、セシリアスタはカップを受け取り口を付けた。
「ミルグ領の方は終わったみたいだよ。どの生息域のカーバンクルも、無事発見出来たって」
「そうか……」
 やはり、トレスト領は難航しているか……。そう考えるセシリアスタの元に、バタバタと忙しない足音が聞こえてきた。
「セシル! 証拠掴んだぜ!」
 室内に駆け込んできたエドワースが、汗を拭いながら此方に向かってくる。証拠が掴めたという言葉に、二人は目を細めた。
「やはり、密猟だったか?」
「密猟どころじゃねえよ。連中、何か隠してやがる」
「というと?」
 イザークの問いに、エドワースはイザークの持っていたカップを奪い取り一気に紅茶を飲む。「間接キス!」
と叫ぶイザークを放っとき、エドワースは言葉を続けた。
「最奥の生息地にいた筈のカーバンクルがいなかった。それどころか、生息地の一角は草も生えてなかった。連中、あそこで何かを触媒に呪具を作った可能性がある」
「触媒……あのカーバンクルは子どもだった。となると、触媒は親か」
「だろうな。普通カーバンクルは親子で生活しているもんだ。それが子どもだけってことは、確実に親を触媒にして何か作ってるぞ」
 そこまで言い、再びエドワースは紅茶のカップを呷った。相当急いで帰って来たのか、喉が渇いているようだった。
「血痕は?」
 イザークの問いに、エドワースは首を振った。
「綺麗に消されてた。魔力残滓で魔法を使った痕跡だけが残されてたけど、それ以外はなかった。でもカーバンクルは子どもに手を出すものには攻撃的だ。その親が子どもを助けに来ないってことは、触媒に使われた可能性しかない」
「そうなるな。イザーク、これでユスターク家に押し入る用意は出来たな」
「そうなるね。行くかい? 状況が状況だから、精鋭部隊も動かせるよ」
 イザークはにこりと微笑んだ。その笑みに、セシリアスタは「そうだな」と言葉を返す。
「エド、精鋭部隊を招集しろ。人数は少人数で構わん。ユスターク家を密猟、及び保護区内の聖獣への殺害容疑で拘束する」
「はいよっと! んじゃ、俺も準備してくるわ」
 くるりと翻し、エドワースは部屋から出て行った。セシリアスタに視線を向け、イザークは話しかける。
「僕も行こうか? あの伯爵は口だけは達者だからね」
「そうだな……お前がいてもすぐに口を割るかはわからんが、呪具の作成は王家の許可なしでは作成は禁止されている。それを破ったことをお前の口から言われれば大人しくなるだろう」
「じゃあ、僕も馬の準備とかしてくるよ」
 そう言って、イザークも部屋から出て行った。

(レティシア、待っていてくれ……)
 最愛の妻の笑顔を脳裏に浮かばせながら、セシリアスタは険しい表情でトレスト領の方角を見た。
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