魔法の使えない不良品伯爵令嬢、魔導公爵に溺愛される2

監禁3

　ユスターク家に監禁されてから、五日が経過した。レティシアは変らず、運ばれる食事はカールの浄化の力で黒い靄を除去して貰ってから手を出すようにしている。入浴もだ。バスタブに溜まるお湯からも黒い靄は出現し、カールはそれを簡単に除去してくれた。
（あの黒い靄は何なのかしら……？）
　疑問に思いつつ、レティシアは朝の入浴をしている。五日も経つと、自分一人での入浴にも慣れてきた。カールの毛も洗ってやり、タオルで拭ってあげる。服にはカールのお陰で黒い靄は消え、好きなものが選べるようになったが、相変わらず服はヴィクターの好みなのか好きになれそうになかった。しかし、屋敷に来た際に着ていたドレスはディオスに持っていかれて以降戻ってきていないので、仕方なくクローゼットから適当に取り、袖を通す。
「キュウ」
「どうしたの？　カール」
　そっと肩に乗って来て、頬を舐めだすカール。あの日、ビビアナにセシリアスタに見捨てられたのだと言われた時に殴られた頬は、漸く腫れが引いてきた。心配してくれているのだろう――。嬉しさに、レティシアは微笑みカールの頭を撫でてやった。




　そんな穏やかな時間も、ヴィクターが部屋にやってきたことで終わりを告げた。こうも連日来られ、はっきり言ってうんざりしてきているレティシアだが、そんなことも気付かないヴィクターはゆっくりとレティシアに近付く。
「ああ、レティシア……こんなに顔が腫れてしまって。ビビアナにはきつく言っておくよ」
　そう言いながら、頬に手を添えられる。すぐさま離れ、キッときつく睨むレティシア。だが、そんなレティシアのことなどお構いなく、ヴィクターは近付いてきた。今日はもうビビアナが来る時間だと言うのに、彼女が来ない。訝しむレティシアに、ヴィクターはにこりと微笑んだ。
「今日はビビアナは来ないよ」
「え？」
　驚くレティシアの腕を急に強く掴んだヴィクター。気を抜いてしまった一瞬を突かれた――。レティシアは振り解こうと必死になるが、もの凄く強い力で掴まれ引き剥がすことも出来ない。それ所か、嫌がるレティシアをベッドまで引きずり、そのまま放り投げた。
「きゃっ、何をするんですか！」
「君がいけないんだよ。毎日、毎日毎日毎日！　僕が君に愛を囁いているというのに、君は僕の愛を拒むから……だから」
　ベッドに投げ出されたレティシアに近付き、ヴィクターは笑みを浮かべる。あまりにも幸せそうに笑顔を向けてくるヴィクターに対し、レティシアの背に悪寒が走った。
「君を僕のものにしちゃおうと思うんだ」
「っ！」
　急いでベッドから離れようとするが、その前にヴィクターがレティシアの上に馬乗りに跨ってきた。押し飛ばそうと手を伸ばすが、その手を掴まれ、片手で頭上に固定されてしまう。レティシアは頭を振って抵抗した。
「嫌！　離して！」
「君が僕の愛を信じてくれないからいけないんだよ？　ほら、こっちを向いて」
「いやあ！」
　顔を掴まれ、固定される。嫌がるレティシアを助けようと、カールが跳びかかった。
「キャウウ！」
「いっ、この！」
「キャウッ！」
　カールは勢いよくヴィクターの腕に噛みついた。だが、ヴィクターに振り払われ、床に投げ飛ばされた。
「カール！　離して！」
　カールの元に行きたい――。レティシアは懸命に腕の拘束を解こうとするが、エンチャント魔法を使われているのかびくともしない。それ所か、抵抗するレティシアへ次第にヴィクターは表情を歪めた。
「そんなに嫌がるなよ……魔導公爵なんて忘れさせてあげるから、ね？」
　ビリッ、とドレスの胸元を引き裂かれる。このまま、されるがままなんて絶対に嫌――。脳裏に最愛の人の姿が浮かび上がる。セシル様、セシル様、セシル様――！！
「助けて、セシル様……っ！」
　レティシアは涙を滲ませながら、セシリアスタの名を叫んだ。