極秘の懐妊なのに、クールな敏腕CEOは激愛本能で絡めとる
「あ」
 二葉は我に返ってシートベルトを引き出した。バックルに差し込むカチリと言う音が聞こえて、奏斗はゆっくりと車をスタートさせる。
「日本にはいつ帰ってきたんだ?」
 車が公道の流れに乗ったところで、奏斗が口を開いた。
「……今週の月曜日です」
「……そうだったのか」
 奏斗の声が少し沈んだ。二葉はすぐに連絡しなかったことを責められるかと思ったが、彼は気遣うような口調で言った。
「おじいさんの具合はどうなの?」
「幸い、手術を受けて順調に回復しているみたいです」
「それはよかった。病院はこの近く?」
「いいえ、滋賀県です。祖父には祖母がついています」
 二葉は淡々とした口調で答えて、窓の外に視線を向けた。
 月曜日に険悪な別れ方をして以来、祖父母から連絡はなかった。二葉に対してあんなにも怒っていたのだから、それは当然かもしれない。
 祖父母にも愛されず、頼れる家族もいない。五年も付き合っていた恋人にあっさり捨てられたくらい魅力のない自分。そんな自分と、大企業の御曹司で会社のCEOでもある奏斗。
 どう考えても釣り合わない。彼だけでなく、彼の家族にだってきっとそう思われるだろう。
 車が減速したので前を見たら、信号が赤になっていた。
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