極秘の懐妊なのに、クールな敏腕CEOは激愛本能で絡めとる
 けれど、その気持ちを振り切るように、顔を上げて言う。
「わざわざありがとうございました。では――」
 ドアを閉めようとドアノブに手を伸ばしたとき、奏斗の手がドアを押さえた。
「イギリスの思い出話を聞かせてくれないか?」
「え?」
 奏斗は一度視線を逸らしてから、二葉を見た。
「ほら、俺は仕事でロンドンに行っただけだから、ほかの都市を回れなくて。話を聞かせてくれたら嬉しい」
「あ……」
 これ以上、奏斗と一緒にいたら、抑えなければいけない気持ちがまた盛り上がってしまいそうだ。
(でも……せっかく絵をプレゼントしてくれたんだから)
 二葉は言い訳するように心の中で言って彼を見た。
「わかりました。では、コーヒーを淹れますので、どうぞ」
「ありがとう。お邪魔します」
 二葉は奏斗をリビング・ダイニングの二人掛けのソファに案内して、絵はひとまずローチェストの上に立てかける。
「こちらは……ご両親?」
 ソファに座ろうとした奏斗が、絵の横の写真に目を留めた。
「はい」
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