極秘の懐妊なのに、クールな敏腕CEOは激愛本能で絡めとる
『二葉! 大変、火事よ!』
「えっ!?」
 かすかに焦げ臭い匂いが漂ってきて、騒々しいサイレンの音が近づいてくる。
「嘘っ」
 二葉はベッドから跳ね起きた。
 廊下を急ぎ足で近づいてくる音がしたかと思うと、二葉の部屋のドアが勢いよく開いた。
『二葉っ』
 部屋着姿のフローラが、真っ青な顔で言う。
『外へ逃げましょう。フォース・フロアが火事なんですって』
『えっ』
『早くっ!』
 フローラに急かされ、二葉は靴に足を入れて、パジャマ代わりのスウェットの上下のまま廊下に出た。
『急いでっ、ミズ・ホール!』
 開いた玄関ドアの外から、男性がフローラを呼ぶ。紺色のパジャマを着た五十代くらいの男性で、真っ青な顔をしている。
 灰色の煙が、共用廊下の天井を這うように伝って下りてくるのが見えた。
『さあ、早く!』
 男性はフローラの手を取って階段へと促した。
『二葉も急いで!』
 フローラが振り向いて言った。
『は、はい』
 二葉はスウェットの袖で口元を覆って、男性とフローラの後に続く。煙に追い立てられながら一階に降りたとき、角を曲がって消防車が二台近づいてきた。イギリスのドラマや映画で見たことのある消防車だが、これは現実なのだ。
 フラットの前には人だかりができている。
< 17 / 204 >

この作品をシェア

pagetop