極秘の懐妊なのに、クールな敏腕ＣＥＯは激愛本能で絡めとる

『どいて！　危ないから下がって！』
　消防車が停まって、消防士が飛び出した。野次馬を遠ざけようとする怒号や避難する人々の悲鳴が飛び交う。
『道を空けて！』
　ホースを持った消防士がそばを駆け抜けていく。
『早くこっちへ！』
　別の消防士に促されて、二葉たち三人はフラットから離れた。通りを渡りながら見上げたら、最上階、つまり五階の窓からモクモクと黒い煙が上がっている。
（ああ、そっか……フローラは『フォース・フロアが火事』だって言ってたけど、イギリス英語だと五階になるんだった……）
　それなら、二階下にあるフローラの部屋は大丈夫じゃないだろうか。
　緊迫した空気の中、一縷の望みを抱きながら消火活動を見守る。数人の消防士が階段を駆け上がり、はしご車がはしごを伸ばして放水を始めた。
　フローラの手を引いて階段を下りてくれた男性は、先に下りていた妻のそばに行き、スマホで誰かに電話をかけ始めた。
　周囲には、着の身着のまま逃げてきたフラットの住人が数人いて、みんな同じように友人や家族に電話をしたり、メッセージを送ったりしている。