極秘の懐妊なのに、クールな敏腕CEOは激愛本能で絡めとる
 やがて……無事に消し止められたらしく、フラットの階上から『鎮火!』という消防士の声が聞こえてきた。通りにいる人たちが歓声を上げて、どこからともなく拍手が起こる。住民たちも張り詰めた表情を和らげた。けれど、焦げ臭い匂いが辺りを満たしていて、もう鼻がおかしくなりかけていた。
『荷物を取りに戻れるか、訊いてみるわね』
 フローラは二葉に言って消防士に近づいたが、少し話をしたあと、首を振りながら戻ってきた。
『再燃の恐れがないか確認しないとダメなんだって。うちは二階下だって言ったんだけどねぇ』
『そうなんですか……』
『ここで待っているのも寒いし、近くのカフェに行きましょう』
『でも、私、お財布もスマホも持って出られなかったんです。それにこんな格好ですし』
 フローラはカーディガンのポケットからスマホを取り出した。
『大丈夫、私が電子マネーを持ってるわ。それに、顔見知りのカフェだから、事情を話せば入れてくれるはずよ』
 フローラはそう言って、フラットから程近いカフェに二葉を連れていった。セミディタッチドという二軒の家が一つにくっついた住宅の右側がカフェで、左側はフィッシュ・アンド・チップスの店だった。営業しているのはカフェの方だけで、老夫婦が一組、モーニングティーを飲んでいる。
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