極秘の懐妊なのに、クールな敏腕CEOは激愛本能で絡めとる
「お父さんと対立……それは大変だったでしょう」
 二葉の言葉を聞いて、奏斗の笑みが苦笑に変わった。
「確かに大変ではあったけど、好きなことをやっているので、苦労とは思わなかったですね。ただ、父や周囲の人間には、何度か『〝ちょっと違う〟なんて軽い気持ちで仕事を辞めるな』とは言われましたが」
「でも、確かに〝ちょっと違う〟なんですよね。その小さな違和感が積み重なると、それはもう〝ちょっと〟ではなく、〝大きな〟違いになりますよね」
 二葉自身も翻訳会社を辞めたのは、自分のやりたいことと〝ちょっと違う〟と感じたからだ。
 二葉は奏斗に共感しながら話を続ける。
「私も〝ちょっと違うな〟って思って、前の会社を辞めたんです」
「俺と一緒ですね。二葉さんは今はどんな仕事をしてるんですか?」
 奏斗に訊かれて、二葉は翻訳会社でコーディネーターとして働いていたが、翻訳者になりたくて退職し、今はフリーランスの翻訳者として働いていることを説明した。
「退職するときは周りの人に反対されたんですけど」
 応援してくれたのは、両親だけだった。そんな両親が交通事故に巻き込まれて亡くなったのは、二葉が翻訳会社を退職した直後のこと。
(あれから一年経ったけど……まだ小説の翻訳はできていない)
< 39 / 204 >

この作品をシェア

pagetop