極秘の懐妊なのに、クールな敏腕CEOは激愛本能で絡めとる
「言ってしまったなんて……そんなふうに言わないでください」
 テーブルに沈黙が落ちた。
 二葉はなにか言わなくちゃと思って、思いつくままに言葉を発する。
「小説翻訳は狭き門で……会社を辞めるときにも、当時付き合ってた彼に猛反対されたんです。『毎月給料がもらえる会社員の方がいいだろ』とか『フリーランスなんて不安定な仕事を選ぶなよ』とか……。私自身、そう簡単に夢が叶うとは思ってなかったんですけど……。でも、両親は応援してくれて……」
 彼氏と夢、どっちも諦められなくて悩んでいたとき、『どちらも諦めずにがんばってごらん』と両親が背中を押してくれたのだ。
 けれど、二葉が翻訳会社を辞めて一ヵ月もしないうちに、圭太郎は新しく恋人を作っていた。それを知ったのは両親を亡くした直後だったから、余計につらかった。二葉にはもう彼しかいないと思っていたから。
 今でも、仕事が途切れたり、思ったような仕事がもらえなかったりすると……圭太郎の言葉が耳に蘇って苦しくなる。
 後悔なんてしたくないのに、してしまいそうになる。
 心が重く冷たく沈んで下唇を噛みしめたとき、テーブルに置いていた右手に、温かく大きな手が重なった。
 驚いて顔を上げたら、奏斗がテーブルの反対側から左手を伸ばしていた。
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