極秘の懐妊なのに、クールな敏腕CEOは激愛本能で絡めとる
 薄曇りの空と落ち着いた緑を背景にした景色は、どこをとっても絵画のように見える。
 壮麗な宮殿。
 ゴシック様式の豪華な記念碑。
 形が蛇に似ていることから名づけられたサーペンタイン・レイク。
 水鳥に餌をやる子どもたち。
 白い花崗岩が美しい噴水……。
 見て回るには広すぎる公園だが、奏斗とゆっくり歩いていたら、疲れはまったく感じない。
 早く夢を叶えようと必死になって追いつめられていた心が、解きほぐされていくようだ。
「あ」
 木立の間を歩いていたとき、奏斗が小さく声を出して立ち止まった。
「どうしたんですか?」
 二葉は足を止めて奏斗を見上げた。彼は斜め前の木立を右手で指差しながら小声で言う。
「二葉さん、あそこ。リスがいます」
「えっ、どこですか?」
 二葉は目を凝らしたが、木の陰になっていて暗くてよくわからない。
「あそこです」
 奏斗は左手を二葉の肩にかけて彼の方に引き寄せた。
「見えますか?」
 奏斗は二葉の背後に立ち、目線を合わせるように二葉の右肩に顔を寄せて右手を伸ばす。
「ほら、あの木の陰」
 耳のそばで奏斗の声が聞こえて、距離の近さに二葉の鼓動が跳ねた。
「あ、え、っと」
 二葉は頬を赤くしながら、彼の指先へと視線を送る。すると、木陰の芝生の中に、もぞもぞと動くものが見えた。ふさふさの尻尾をした黒と茶色の混じった小動物が、忙しなく口を動かしている。
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