呪われた悪霊王女は、男として隣国の人質となる~ばれたくないのに、男色王子に気に入られてしまって……?~

36話 たとえ見えなくても。

「ベティ。つけてあげようか、それ」
「……遠慮します」
「いいから、いいから。ほら、貸して」
流れるような手つきで、リナルドにイヤリングが攫われる。
取り返そうとしてまた壊れたらと思うと、もう受け入れざるをえない。ベッティーナはため息を吐くが、姿勢をただして動きを止め目をつむった。
「珍しく素直でいいね」
しばらくあと、ベッティーナの耳にリナルドの手がそっとふれる。こそばゆく感じて肩をいからせてしまうが、彼はそんななかでもあっさりと両側の耳元にイヤリングを収めたらしい。
「ほら、見てみなよ」
すぐに手鏡を取り出して見せてくれる用意周到ぶりだった。
十年前、新月の夜に落ちた星が、耳元で再び輝きを見せている。
「随分慣れてますね。誰かにやったことでもあるんです?」
「おっと、誤解はよしてくれよ。鏡があるのは、ここにイヤリングが入ってることをしっていたから持ってきたんだ。こんなこと、誰かにやったのは今が初めてだ、君がね」
「別にそこは気にしてませんけど」
「だろうね。だから、意識するようにあえて言ったんだ」
ベッティーナは鏡に映るイヤリングを見ると同時、その奥で微笑みを浮かべているリナルドへと目をやった。
「似合ってるよ」
視線に気づいてか、彼は鏡に向けてにっと唇を吊り上げて見せるから少し鼻につく。男色疑惑があった時は鳥肌ものだったが、今度は今度で肌の裏がむず痒い。
やっぱり得意ではないなとも思う……のだけれど。
あの夜、ベッティーナを照らした彼の光は今も消えていない気がする。だからとりあえずもう少しは、近くでそれを見定めていようとも思っていた。
その後「君の観察と書類仕事の並行業務だ」とかなんとか言って、リナルドはベッティーナの前で公務に取り掛かる。
一方のベッティーナは新聞を畳むと、いつか貰った原稿用の用紙を取り出して、ペンを握った。
そして今度こそ、小説の一文目を書き出すのだった。
『たとえ見えなくとも』、と題して。
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