ハイドアンドシーク
「しののめさ……」
ほっとしながらその顔を見上げて、息を呑む。
そこにはわたしの知らない東雲さんがいた。
「初対面で殴りかかってくるフツー?」
東雲さんの纏うオーラに気圧されているのはわたしだけ。
真っ向から対峙した葛西くんも口許に笑みを湛えながら、目だけは少しも笑っていなかった。
龍と虎。
この場を支配するふたつの底知れぬ恐ろしさに、辺りの温度が一気に下がったんじゃないかと錯覚させられる。
「なーんてね、冗談だよ」
最初に沈黙を破ったのは葛西くんだった。
わたしたちから距離を取るように、肩をすくめながらひょいと後ろに下がる。
「東雲統理、君はどこか僕と同じ匂いがするね」
「しねーわ。気持ち悪ぃこと言ってんなよ」
くすりと笑みにも満たない笑みを零した葛西くんは、もうわたしのことなんてつゆほども興味がないらしい。
東雲さんを見つめるその瞳は、底がなくて、光すら吸い込んでしまいそうな黒だった。
「ベータの君が、彼女にしてあげられることはなんだろうね」