ハイドアンドシーク




「はあぁ……どうしよ、」


昼間の出来事が尾を引いていたのか、その夜のれんは随分と大人しかった。

制服を脱ぎ捨て浅くベッドに腰かけ、もう何度目かのため息をついている。



「性別のこと、バラされたら終わりかも」

「そりゃ男子校に女がいたってなったらな」

「それもですけど、オメガだってこともあっさり知られちゃったしさぁ。わたしあの人きらい……」


嘘をつくのが下手なわけじゃない。

ただ、ちょっとした癖がこいつの嘘を分かりやすくしている。



「お前いま腹減ってる?」

「減ってないよぉ、それどころじゃないもん」


減っている。

それどころじゃなくても、腹は減っているらしい。


相手への罪悪感が深層心理にあるのか、れんは嘘をつくとき鼻に手を持っていく癖があった。


冷蔵庫から取り出したチョコレートを投げて渡すと、思ったとおり喜んで口に放り込んでいる。

素直なやつだ。



「……これでここまで隠し通せたんなら上等だろ」

「え、なに?今なんか言いました?」


俺はこいつも、こいつの覚悟も少し甘く見過ぎていたのかもしれない。


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