ハイドアンドシーク
ふ、と視線が交わる。
「来たかったら一緒に来てもいいんですよ」
「……無理。ここで限界」
眉を下げて、微笑まれる。
そう答えることも分かっていたと言わんばかりのその表情が気に食わなかった。
「寒いの苦手ですもんね、東雲さん」
「お前まじで、ここの冬もやべーから」
「えーたのしみ。雪合戦とかしたいな」
「死んでもやらねーからな、俺は」
れんはこんなでも意外にフィジカルが強い。
ヒートを除いて、体調を崩したことはこの数ヶ月ほとんどなかった。
息をするだけで肺が凍りそうな冬の朝。
うっすい防寒着とマフラーに顔をうずめ、楽しそうに雪を投げているその姿は容易に想像がついた。
そこに俺の姿は──
「そっか、じゃあ東雲さんとはここでお別れかぁ」
「……は」
「だっていつだったかな、前に教えてくれましたよね、卒業したら向こうに帰るって」
帰る場所はない。
向こうにも、どこにも。
卒業後のことを考えたとき、最初に浮かんだのがあの団地だっただけで。
あの街自体に思い入れがあるわけじゃなかった。
俺がこれといった理由もなく戻ろうとしている場所は、れんが何か理由があって少しでも遠ざかろうとしている場所でもある。