一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
「あなたが礼志を唆したのでしょう! 出て行きなさい! だいたいこの家はまだ礼志のものじゃない。今まで住まわせてやったことを感謝して欲しいくらいよ」

 祖母は扉を指差し母に言った。
 本来なら祖父母が亡くなったあと、この家を相続するのは父の予定だった。
 だがこちらとしては、相続するには厄介な不動産がなかったことが不幸中の幸いだった。父の持つ財産は現金や有価証券が大半で、分けやすかったからだ。

「そのつもりです、お義母(かあ)様。今まで大変お世話になりました」

 母は祖母に頭を下げる。その姿を見て、正直なところホッとしていた。
 やっとこの家から逃れられる。残された財産は、母と二人でしばらく暮らしていくには十分だ。弁護士になるまではまだ数年必要だが、その後は自分が母を養えばいい。
 そんなことを考えていた自分の元に祖母は来ると、突然縋りついた。

「大智さん。あなたは違うわよ。礼志の子ですもの。この家に住み続けてもらうわ」

 茨が体中に纏わりついていくようだった。だがこの手を振り払えば、きっと矛先は母と美礼に向かう。

「わかりました……」

 今は従うしか道はない。それが二人を守る唯一の方法なのだから。
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