一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 ――弁護士になり一年半が経とうとしていた。
 就職したのは大手と言われる弁護士法人だ。大学の教授を介し知り合ったOBが縁を繋いでくれ、その人の下につき、主に企業の法務を担当している。
 日々勉強で、覚えることは山とある。けれど仕事に打ち込んでいるほうが気が楽だった。
 阿佐永の家からはいまだに出ることはできず縛られていた。祖母に強く出ることもできず、仕事にかこつけて帰宅時間を遅くしていた。実際のところ、職場から家まで車で一時間ほど掛かる。帰るにしても寝に帰るようなものだった。

 その日も家に帰り着いたのは午前零時を回っていた。玄関先にだけ明かりのつく家に静かに入り、自分の部屋に向かおうとしたときだった。

「お帰りなさい、大智さん」

 廊下の奥から出てきたのは祖母だった。車が止まる気配を感じたのか、部屋から出てきたようだ。寝巻の上にガウンを羽織っていて、もう休もうとしていたらしい。

「ただいま帰りました」

 淡々とした口調で返すと、祖母は自分の元へ歩みを寄せた。

「毎日遅いわね。そんなに忙しいのかしら」

 チクチクとした棘が言葉の端々に刺さっている。それはいつものことで、受け流す術も身につけていた。
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