一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 そしてその日、信じられないことが起こった。
 仕事が押し一時間ほど遅れて行った店で、待っていたのは高校時代の友人たち……だけのはずだった。
 店のスタッフに案内され、部屋を仕切っていた引き戸を入ると真っ先に目に飛び込んできたのは、彼女の顔だった。
 他人の空似かと思った。けれどなぜか"間違いない、彼女だ"と心のどこかで声がした。

「――瀬奈由依です」

 電車の中で聞いたあの声で、自分が知っている名前を告げる。あの時盗み見していた彼女より大人びているが、何も変わっていない。自分が恋焦がれていた彼女が目の前にいた。

 そこからは柄にもなく緊張していた。みっともない姿を晒したくなくて、平静を装っていたが、本当は司法試験に臨むときよりも鼓動は早く感じた。
 少し話しただけで、彼女が自分の想像していた通りの人柄だとわかった。電車の中で席を譲る姿、たくさんの荷物と子どもを抱え困っている女性に、自分が降りる駅でもないのに一緒に降りていく姿。一年近く見ていた、彼女の優しい性格そのままに大人になったのだと思った。
 けれど時折覗かせる暗い表情。それが気になっていた。天真爛漫という言葉が似合っていた彼女に、何があったのだろうかと。
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