一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 幸せだと思った。永遠にこんな日が続けばいい。叶うはずもない淡い願いが心に浮かんだ。
 由依にしてみれば、あったばかりの人間だ。けれど自分にとっては何年も忘れられなかった人。我を忘れそうになりながら彼女に溺れた。

「約束、して……。僕の前から消えないって……」

 気がつけばそんな台詞を口にしていた。どんな関係になったっていい。いつか彼女に授かるかも知れない家族の父親。由依が自分を愛してくれなくても、切れない絆で繋がっていればそれでいいんだと自分自身に言い聞かせていた。


 ――夢を見た。

『大智……』

 父だった。自分は小さな子どもの姿で、父を見上げていた。青色のスクラブを着ている父は、自分の記憶よりかなり若く見えた。父は薄ら微笑むと大きな手で自分の頭を撫でた。
 こんなことをされたことがあっただろうか? それに父が笑う顔など見た記憶がない。
 何か言っている。なのにこの世界に音は無く、自分の耳にはなんの言葉も届かなかった。それでも父はしばらく口を動かし続け、満足したように笑みを浮かべたあと自分に背中を向けた。
 そのまま父の背中は遠ざかって行く。追いかけたいのに足が動かない。手を伸ばして「待って!」と叫ぶのに父の姿は小さくなっていた。
< 133 / 253 >

この作品をシェア

pagetop