一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 これまで祖母との約束を違えたことなどなく、従順に従ってきた。けれど今回ばかりは自分を優先した。
 こじつけのような理由で由依を引き留めて時間を引き延ばすと、彼女は了承してくれた。

 ホテルを出る前に家に電話を入れた。祖母が直接その電話を取ることなどない。出たのは叔母で、"急用ができたため、今日の昼食に同席できないと伝えて欲しい"と手短に言い電話を切った。

 由依は最初こそ硬い表情をしていたが、時間が経つにつれその顔を綻ばせていた。こんな穏やかな時間を過ごしたのはどれくらいぶりだろうか。由依と一緒にいればいるほど、離れたくないと思う自分がいた。

 なのに……。

 スマートフォンに表示された、"阿佐永咲子"の文字を見て、眉を顰める。
 もう時間は昼どきで、言付けが伝わっていなかったのかと思ったが、いや、今伝わったのだと思い直した。
 電話に出ると、案の定祖母は凄い剣幕で捲し立て始めた。

『どういうことなの! お客様をお待たせしているのよ? わかっているんですか!』
「えぇ。わかっています。ですが所用が入ったとお伝えしたでしょう」

 自分でも感じるくらい苛立つ。たった一度約束を守れなかっただけで、こんなことを言われる筋合いはない。
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