一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
『私以上に大事な用事なんてあるわけないでしょう! 今すぐ帰ってらっしゃい!』
「今すぐ帰宅するのは無理です。まだ用は終わっておりません」

 あくまで冷静に。そう思っていても怒りを抑えるような冷たい声が出る。

『そんな屁理屈など通用しません。いいですね! 今すぐ戻るのです』

 ヒートアップする祖母に、気圧されないよう息を吸い、ゆっくりと切り出した。

「ですので、必ず顔を出します。それまで猶予を……」

 だがそれが祖母には響くことはない。

『いいでしょう。貴方がそういう態度に出るのであれば、こちらにも考えがあります。貴方の母親の事業、峰永会の寄付がなければたちまち立ち行かなくなるのでしょう? 今すぐ打ち切ってもいいんですよ? よく考えなさい。では、お客様を待たせているから』

 カァッと頭に血が昇るのを感じる。これが本当の怒りの感覚なんだと思い知る。

「それは関係ないはずです。待ってください! 咲子(さきこ)さん!」

 我を忘れ呼びかけるが、電話の向こうには虚しく無機質な音が響いていた。
 祖母は、孫に決して"お祖母(ばあ)様"と呼ばせないくらいプライドの高い人だ。世界は自分の意のままに操れると思っているのだろう。
 そして自分は、それに翻弄され続けていた。
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