一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 祖母は厳しい口調で、立ったままの自分に向かって言う。それは自分にとって意に沿わない命令でしかなかった。

「……必要ありません。僕は会うつもりはありませんので」

 冷たく言い放つと、祖母は手に持つソーサーにカップを置く。そして歳を重ねてもなお、美しく整った顔を不愉快そうに歪めた。

「自分が何を言っているのか、わかっているのかしら? 貴方の行動一つで母親が露頭に迷うことになるのよ?」

 こうやって脅せば、自分が屈するのだと確信しているのだろう。けれど、もうたくさんだ。
 ここに帰るまでに思案を巡らせた。峰永会の寄付が無くなった場合に、母の事業をどう継続させるか。

(道はあるはずだ。だからもう……)

 ギュッと拳を握ると、祖母に向かって切り出した。

「僕はこの家を出て行きます。もういいでしょう。縁を切るならどうぞご勝手になさってください」

 もう自由に、何の柵もない一人の人間になりたい。そして願わくは、由依とこれからの人生を共にしたい。

 真っ直ぐに祖母に顔を向けると、祖母はワナワナと唇を震わせていた。

「なっ……何を言っているの……?」

 持ったままのティーカップは、その震えに合わせてカチャカチャと音を響かせていた。
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