一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 差し出された手をひしと握ったのは叔母だ。

「お義母さま。大智さんですよ、わかりますか?」

 祖母はその呼びかけに視線だけ動かすとまだ虚ろな表情で、「ああ……」と掠れた声を出した。

「……由紀子、さん……。家のことは……頼みますよ……」

 叔母の問いに答えることなく、祖母の返したその内容に耳を疑う。祖母ははっきりと叔母の名を呼んだ。では何故、自分のことはわからないのだ。

「母さん、家のことも峰永会のことも大丈夫だ。心配せずゆっくり休んでくれ」

 叔母の横から顔を出し叔父がそう言うと、祖母は天井に顔を動かした。

「そう……だね……」

 ちゃんと意思の疎通はできている。その様子を、言葉を発することもできず呆然と眺めていた。

 促され部屋を出ると、苦々しい表情の叔父と目が合った。

「悪い、大智。母さんは目が覚めてからずっと兄さんを呼べと言っていたんだ。混乱しているだけで一時的なものだとは思うんだが……」
「いえ……。悌志さんが謝ることでは……。咲子さんの心の拠り所はお父さんだけだったのでしょう。しかたありません」

 自分が幼い頃から、祖母はずっと父に執着していたのは知っていた。だが、これほどだとは想像もしていなかった。
 そしてこの執着は、相当根深いものだったと、その後知ることとなった。
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