一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
「そういえば、入籍はいつにするか考えてるの?」

 大智が灯希をお風呂に入れているあいだに、美礼と夕食の片付けをする。シンクの前で並んで皿を洗っていると、美礼に尋ねられた。

「できれば早く、とは思っているんですけど……。その前に大智さんのお母さんが何とおっしゃるか……」

 明日この家に、大智と美礼の母たちが来ることになっている。もちろん会うのは初めてだ。大智からは心配いらないと言われているものの、断りもなく子どもを産み、それを隠していたことを良くは思われないだろう。

「大丈夫だって。二人とも灯希くんに会うの楽しみにしてるわよぉ。大智が選んだ人なんだから、由依ちゃんのことだってきっと気にいると思うよ」

 泡の付いたスポンジを皿に滑らせながら、美礼は明るく笑う。その横顔を眺めながら、皿が渡されるのを待った。

「だと、いいんですけど。でも……問題はそれだけじゃなくて」

 渡された皿の泡を水で流しながら、浮かない顔で返事をする。

「問題? 何かあったの?」
「その。私の家族というか、一緒に住んでる……。そういえば、美礼さんは会ったことありますよね。たっちゃんに」

 美礼は産後、助産師として家に来てもらったことがある。そのとき樹は家で仕事をしていたから、会っているのだ。

(そういえば、あのとき……)

 そのときの美礼をふと思い出す。樹の顔を見たとき、幽霊でも見たかのように一瞬驚いた表情をしたのだ。まるで、樹に会ったときの大智のように。
 もしかして、樹と峰永会の関係を知っているのだろうか? まさかそんなはずは、と思いながらも疑念を抱いてしまう。
 流し終わった皿をカゴに置き、美礼に向く。美礼は最後の皿を洗っていた。

「あ、あの。美礼さん」

 どうして驚いたのか、その理由を聞きたい。そう思い切り出したタイミングで、バスルームからの呼出音が鳴り出した。

「あっ、お風呂上がったみたいだよ。私片付けておくから、由依ちゃんは迎えに行ってあげて? バスタオルは向こうに置いてあるから」

 今は聞くな、と神様は言っているのだろうか。そんな気持ちでバスルームに向かった。
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