一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 翌日は朝からソワソワと浮き足だっていた。なにしろ、お昼前には大智の母と会うことになる。今までまともに付き合った相手すらおらず、何が正解なのかなんてわからないのだから。

「ただいま〜。帰ったよぉ」

 リビングで灯希を遊ばせていると、軽快な口調の女性と、その後ろにもう一人女性が続いていた。
 最初の女性は、美礼の母だとすぐわかった。溌剌としていて若々しく、五十代半ばには見えない。醸し出す空気感は美礼とそっくりだ。

「おかえり! 聡美おばちゃんも、いらっしゃい」
「美礼ちゃん、お邪魔するわね。これ、みんなのお昼ご飯ね」

 "聡美おばちゃん"と呼ばれた女性は、ゆったりとした口調でデパートの紙袋を渡している。美礼の母より小柄なその女性は、年相応の落ち着きがあった。
 その二人がこちらに顔を向けるのと同じタイミングで、大智が立ち上がる。慌てて自分も立ち上がり、彼の後ろに並んだ。

「ご無沙汰しています。良美(よしみ)おばさん。母さんも、遠いところをありがとう」
「大智くん、お久しぶり。美礼には色々と聞いてるわよぉ!」

 ニコニコと笑いながら言うその顔は、歳を重ねた美礼の姿を想像させる。
 そして、その隣りに歩みを寄せた女性は、姿こそ似ていないが、優しげなその雰囲気が大智によく似ていた。

「大智。元気そうね。今日は誘ってくれてありがとう。彼女たちを紹介してもらえる?」

 薄らと笑みを浮かべ、大智に慈愛に満ちた眼差しを向けて言う。それに頷いた彼は、自分の隣り並ぶように動いた。

「彼女は瀬奈由依さん。電話でも話した通り、僕の子どもの母で、妻になる女性です」

 いつも通り穏やかに話す大智に反して、自分の心臓はドキドキと音を立てている。そしてカラカラになった喉から、何とか声を絞り出した。

「初めまして。あのっ。……すみませんでした。私……」

 そう言って頭を下げる。けれど、ちゃんと謝ろうと思うのに言葉が続かない。情けなくて泣きそうになりながら顔を上げると、大智の母は目を丸くしていた。

「初めまして、由依さん。大智の母です。どうして謝るの? こんなに可愛らしい孫の顔を見られて幸せだわ」

 ふふっと笑うその視線の先には、こわばった顔で大智の足にしがみつく灯希の姿があった。
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