一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 "すみません"の言葉を胸の奥に押し込み、顔を上げる。

「この子は、灯す希望と書いて、灯希と言います。今は一才と五ヶ月になりました」

 そう言うと、大智の母はより優しい笑みを返す。それから静かにしゃがみ灯希に話しかけた。

「こんにちは、灯希くん。驚かせちゃったかな? おばあちゃんです。これからよろしくね」

 少し距離を取って、ゆっくり話しかける姿は、ベテランの保育士のようにみえる。普段から小さな子どもに関わっている。そんな感じを見受けた。
 さすがに灯希は恥ずかしいのか、大智の足の後ろに隠れている。じっと様子を伺っているが、怖がってはなさそうだ。

「みんな、お昼にしようよ!」

 リビングの続きにあるダイニングで、美礼がテーブルの上にお弁当を並べて声を上げる。
 大智は体を反らして後ろにいる灯希を見ると「灯希。ご飯だって。行こうか」と微笑みながら尋ねた。

「まんま」

 ニカっと顔を綻ばせたかと思うと、灯希は抱っこしてとばかりに両手を突き出す。灯希はすっかり彼に甘えることを覚えたようだ。そんな灯希を彼は慣れた仕草で抱き上げた。
 その様子を、立ち上がった彼の母は眺めていた。

「そうしていると、礼志さんと小さい頃の貴方みたいね」

 亡くなった彼の父を思い出しているのだろう。その顔はどこか、懐かしそうでもあり、寂しそうでもあった。

「そうだね。こうしていると、自分にもそんな記憶があったなって、思い出すんだ」

 彼も自分の母と同じような表情をして語る。大智の母は少し嬉しそうに笑みを浮かべて「そう」と小さく呟いていた。

 テーブルに向かうと、デパートで買ってきたらしいお弁当が置かれていた。さすがに灯希の分はなく、自分のものを取り分けようかと考えていると、美礼の母が切り出した。

「由依ちゃん。実は灯希くんにお弁当作ってきたのよ。余計なお節介かなと思ったんだけど、初孫フィーバーってやつ? 聡美さんと二人で張り切っちゃって」

 明るくそう言うと、美礼の母は手元にあったランチバッグからお弁当箱を取り出す。

「アレルギーはないって聞いてるけど、大丈夫だった?」
「ありがとうございます。大丈夫です」

 それを受け取ると、灯希に向かい「よかったね、お弁当だって」と話しかけながら蓋を開ける。

「わぁっ……凄い……」

 思わず声を漏らす。それは、子どもに人気のキャラクターで作られたキャラ弁当だった。
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