一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 夜の八時を過ぎた自分の家の近所は、日曜日ということもあるのかいつもより人気は少ない。邪魔にならない場所に車を停めると、大智は横を向き心配そうな顔を見せた。

「ここでよかったのかい? やっぱり家の前まで……」
「大丈夫ですよ。そこの角を曲がればすぐですし。家の前には車を停められませんから」

 一番近くにあるパーキングまでは少し距離がある。彼に往復してもらうのも申し訳ない。それにベビーカーを積んであるから、なんとかなりそうだ。

「じゃあ、角を曲がるまで見届けているよ」
「はい。あ、そうだ。今日はお母さんたち、一緒に家に泊まるんですよね? 改めてお礼をお伝えいただけないですか?」

 二人は弁当だけでなく、積み木まで用意してくれていた。それでたくさん遊んで貰った灯希は、すっかりみんなに懐き、帰るときには大号泣したのだった。

「伝えておくよ。母さんも言っていたけど、今度は向こうの家に遊びに行こう。由依さえよければ、だけど」
「行きたいです! 大智さんたちの小さい頃のアルバム見せてくださるって。楽しみにしてます」

 彼は少し照れくさそうに笑うと「そうだね」と頷いた。

 名残り惜しいが、そろそろ帰らなければとシートベルトを外し、顔を見上げる。

「二日間、ありがとうございました。凄く……楽しかったです」
「僕も。ずっと一緒にいられて幸せだった。それに、由依を抱きしめて寝られたし」

 昨日の夜は、布団を二組並べて三人で眠った。それ以上のことはしていないけれど、彼のぬくもりに包まれているだけで幸せだった。
 そのことを思い起こしていると、スッと腕が伸びてきて、自分の頰を指がなぞる。

「……でも。やっぱり足りないね」

 見目良いその顔は、艶やかな笑みを浮かべたまま徐々に近づいてくる。ゆっくりと瞼を閉じると、唇に彼からの熱を感じた。
 啄むように始まったキスは深さを増し、唇の隙間を割るように舌がなぞる。その度に体にヒリヒリとした感覚が走っていた。

「んっ、ぅんんっ……」

 必死でその腕に掴む。彼に応えようとすればするほど、艶めかしい水音が車内に響き、それが耳に届くたび背中にゾクゾクとした感覚が這った。

「そんな顔をされたら……。帰したくなくなるよ」
 
 長い長いキスのあと、ようやく離れた唇は吐息と共にそんな台詞を紡いだ。

「私も……です。でも、もうすぐ一緒に暮らせますから」

 頰を紅潮させたまま答えると、また優しく唇が降ってきた。
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