一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 翌日の朝、いつも通りに起きて用意をし、玄関先で灯希を抱っこ紐に入れようとしていたときだった。傍にある階段から、トントントンとゆっくりとした足音が聞こえてきた。

「おはよう、由依」
「たっちゃん、おはよう。朝ご飯、用意してあるから食べてね。今日は休み? 昨日は遅かったんでしょ?」

 灯希を抱き上げ、抱っこ紐に収めながら尋ねる。
 昨日樹たちは、自分が帰ったときはまだ戻っておらず、知らないうちに帰宅したようだ。緩くウェーブのかかった焦茶の髪はボサボサで、顔はまだかなり眠そうだった。

「あぁ。さんきゅ」

 短くそう言ったあと、樹は決まりが悪そうに頭を掻いている。

「どうしたの?」

 何かいいたげなその顔に投げかけると、視線を泳がせながら答えた。

「その。今週土日、どっちでもいい。都合の良い時間に……あいつを、家に呼んでくれ。話、するから」

 まだ割り切れない部分があるのか、樹は複雑そうな表情をしている。けれど樹もまた、進もうとしてくれているのだろう。

「大智さんに聞いておくね。ありがとう、たっちゃん」

 明るく返すと、樹は薄らとした笑みを浮かべていた。そんな樹に見送られながら家を出た。

 灯希を保育園に預け、電車に乗る。ピーク時間を過ぎているから、ぎゅうぎゅうというほどではない。バッグからスマホを取り出すと、大智へメッセージを送る。程なくしてその返事が届いた。

『おはよう、由依。土曜日の午後に訪問させてもらおうと思う。それと、今週は立て込んでいて、昼は一緒に行けそうにない。ごめん』

 素っ気ないようにも見えるが、彼らしいメッセージ。そして遅れて、可愛らしいネコがお辞儀しているスタンプが送られてきて、思わず口元が緩んだ。
 メッセージを登録し合ったとき、最初に届いたのがこのスタンプだった。意外過ぎて驚く自分に、彼は『僕のメッセージには花がないから、少しは可愛くしろって美礼が送りつけてきたんだ。初めて使うんだけど』と笑っていた。
 それからこうして送ってくれる。どんな顔をして選んでいるのだろうと想像するだけで笑みがこぼれた。
 メッセージに返事をして、時間を決めるとスマホをしまう。そうしているうちに職場の最寄り駅に着いた。

 ビルに入りIDカードをかざしゲートを越えると、いつものように二階にある園に向かい階段を上がる

「あ、来た来た。おはよ、由依ちゃん!」

 階段から廊下に出るとすぐ、その人は笑顔で手を振っていた。
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