一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 大智に付き纏っていた相手が、自分の前にも現れるのだろうか? 悶々と考えてしまいそうになるのを振り払い、仕事に励んだ。
 帰りは念のため、周りの様子を伺いながら駅に向かう。何度か振り返ってみたが、つけているような人物は見当たらなかった。

(とりあえず……大丈夫、かな?)

 家の最寄り駅に着き、もう一度辺りを見るが、やはり怪しい人はいないようだ。ホッとすると、その足で保育園へ向かった。

「由依! お帰り!」
「たっちゃん? ただいま」

 保育園の近くで、買い物帰りなのかエコバッグを下げた樹が手を振っていた。

「眞央に頼まれて買い物してきたんだけど、そろそろ由依が帰ってくる時間だから、一緒に帰ろうと思って」

 自分が駆け寄ると、樹は笑顔を見せた。朝に会話したときのぎこちなさは消え、いつもの樹だった。

「うん。灯希もたっちゃんと帰るの久しぶりだから、きっと喜ぶよ」

 ずっとショーのために忙しくしていた樹も眞央も、灯希とゆっくりする時間が取れず寂しがっていた。それは灯希も同じなんだと思う。
 灯希を迎えに行き、外で待っていた樹と合流する。予想通り、灯希は樹の姿を見て喜んでいた。

「たった、だっだ!」
「灯希! 抱っこだな。おいで」

 たっちゃん、抱っこと言いたいのだが、まだまだ言葉はちゃんと出ない。それでもずっと一緒に暮らしている樹には難なく理解できている。抱き上げられた灯希は、キャッキャと笑い声を上げ喜んでいた。
 代わりに樹からバッグを受け取ると歩き出す。明日から十一月になるこの季節のこの時間、陽はとっくに暮れていて、街灯が道を照らしていた。

「こうやって帰るのも、もうすぐ終わるんだな」

 不意に樹がそんなことを口にする。まだ引越しのことも話していないが、なんとなく察しているのだろう。見上げた横顔は寂しそうに見えた。

「うん……。実は……近いうちに大智さんと一緒に住もうと思ってて。でもね、家は近くなの。駅の反対側だけど、会えない距離じゃないから。だから、また会いに行っていい?」

 本当は自分も、樹と眞央と離れるのは寂しい。二人のことを家族だと思っているし、今住む家は実家みたいなものだから。

「本当ならもっと早く、親子一緒に暮らせてただろうに。俺の所為だよな。ごめんな。こっちこそ……また灯希に会わせてくれ。大事な……甥っ子だから」
「うん。もちろんだよ。たっちゃん」

 涙が滲むのを堪える。今生の別れじゃないのだから。震える声でそれだけを返した。
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