一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
「予定は何か入ってる?」
「予定、ですか? いえ、何も……」

 正直に由依が答えると、大智はニコリと微笑んだ。

「じゃあもう少し、由依と過ごしたい。どこか行きたいところはない? 車はここに止めてあるから多少遠くても大丈夫だよ」

 そんな申し出をされたことに驚くのと同時に、車、の一言に体が強張った。
 由依は何年も車に乗っていない。乗ろうとしないのではなく、乗れない、というのが本当のところだ。
 それは事故があってしばらくしてから気づいた。
 事故直後は乗れていたタクシーに、その後乗ろうとしたのに体が震えて乗れなかったのだ。それは公共のバスでも同じだった。両親を奪った車に対する恐怖心が、心のどこかに潜んでいる。今でもずっと。

 由依は両手で自分の体を抱えると、俯いて小さく首を振った。

「ごめん……なさい……」
「どうして謝るの? 嫌だった?」

 大智は不安気な声色で尋ねる。それに由依は震える声で答える。

「車は……無理です……」
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