一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 両手を抱え、由依はうずくまるように体をすくめた。直接事故にあったわけでもないのに車に乗れないなんて、大智は呆れているのだろう。二人とも言葉を発せず、部屋にはしばらく沈黙が訪れていた。

 小刻みに震えていた体が、ふわりと温もりに包まれる。大智は由依の体に両手を回しそっと抱きしめていた。触れれば壊れてしまいそうな宝物を、その胸に(いだ)くように。

「ごめん。僕の配慮が足らなくて」

 謝る大智に、必死に首だけ振る。
 自分にここまでしてくれる理由は、いくら考えても思いつかない。同情とは違うその感情は、愛情に近いのかも知れない。けれど、どうしてそれが自分に向けられているのか、腑に落ちないままだった。
 ひたひたと心に滲みてくるその優しさに縋りたくなるのを、由依は必死で押さえていた。

「すみません、取り乱して……。大丈夫……ですから」

 体を起こし大智の腕を拒絶するように軽く押す。その意味を察したのか、大智は腕を引いた。途端に自分の周りを漂っていた温かい空気は、クーラーに冷やされ寒々しいものに変わっていた。
< 63 / 253 >

この作品をシェア

pagetop