一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 ホテルを出て、最寄りの駅で電車に乗る。自分の帰る方向とは反対方向へ三十分ほど。今までなじみのなかった駅で降り、少し歩くと目的の水族館はあった。
 お昼にはまだ早いこの時間。由依が想像した以上に人は多かった。小さな子どもを連れた家族連れ、学生らしき初々しいカップルに、観光客のグループなど、様々な人が入り口に向かっていた。
 建物に入ると券売所には列ができていた。その列から離れた場所で大智は立ち止まると振り返った。

「チケットを買ってくるよ。ここで待っていて」

 大智は昨日と同じ服装のはずだが、今はネクタイも上着もなくシャツを開襟した爽やかな姿だった。そんな大智にさらりと言われて、由依は慌てて静止した。

「私、出します」
「いいよ、気にしないで。僕が無理矢理誘ったんだし」
「でも……。さっきだって朝食代受け取ってくれなかったじゃないですか……」

 泊めてもらった挙句朝食まで用意してもらい、なんとなく負い目を感じていた。それでなくても、こっそり確認したルームサービスの朝食代は、由依の想像する高級なランチと変わらない額だった。いくらなんでも『ご馳走様です』なんて気軽に言えるはずもなく、由依は支払おうとしたのだが、大智は頑なに受け取ってくれなかったのだった。
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