一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
「前のほう、空いてますよ。降りますか?」

 由依が尋ねると、大智は下の席に視線を送ったあと答えた。

「たぶん……。水が掛かるんじゃないかな? 見て」

 大智の視線の先には、プールに近い最前列に座る数人の客がいた。よくよく見ると、その服装はどこか違和感がある。じっと見てその正体が判明し由依は「あっ!」と声を漏らした。

「みんな、レインコートを着込んでいるようだから相当だと思うけど、由依がいいなら前でも……」
「むっ、無理です! 後ろにしましょう!」

 前の客は皆かなりの重装備のようだ。何の手立てもせず前に座ったら、濡れるどころでは済まないかも知れない。
 慌てて由依が返すと、大智は楽しそうに笑っている。そこでようやく、自分がまた揶揄われていたことに気づいた。

「大智さん、意外と意地悪です」

 頰を膨らませて訴えるが、大智は由依のそんな姿さえ楽しそうに見て笑っていた。
 こうしていると落ち着きのある弁護士から一変して、年相応の若者に見える。その美貌は、周りの視線をかなり集めているが。

「由依が可愛いから、つい」

 そんな会話に羨望の眼差しを感じながら、由依は頰を染めていた。
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