一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 ずっとその場に居座っているエイは、口をパクパクさせて愛嬌のある姿を見せている。よく考えれば、目に見える二つの穴は目のはずはないのだが、位置的にちょうどそう見えてしまう。立ち止まり始めた周りの客からも同じような声が聞こえてきた。

「本当だ。由依に似て、とても愛らしい」

 クスクスと笑う大智に、由依はぷくっと頰を膨らませる。

「私、こんな顔ですか? 確かにエイは可愛いですけど……」
「似てるのは、可愛いらしいところかな」

 表情を緩め甘い声で囁く大智に、頰が熱くなる。彼はすっかり、自分を揶揄う術を覚えてしまったようだ。楽しそうに笑うその姿を見て、そんなことを思った。

「先に進もうか」

 それが聞こえたかのように、エイもひらりと泳ぎだす。

「そうですね」

 そう答えて、通路の先に視線を向けると、由依の目に気になる姿が映った。
 順路を逆走しているのは、五才くらいの男の子だった。キョロキョロと上を見ながら人の間を縫いながら歩いている。

(もしかして……)

「すみません、大智さん。ちょっと待っててください」

 そう言うと由依は男の子の元へ駆け寄った。
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