一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 水槽を見ているのかと思ったが、見ている視線の高さはそうではなさそうだ。必死の形相見ているのは、歩いている人たちの顔だ。
 由依は、ちょうど立ち止まった男の子の前に屈んで、目線を合わせた。

「僕、何か探してるの?」

 突然知らない大人に話しかけられたからだろう。その顔が少し強張った。由依は男の子に向かい、大袈裟なくらいニコニコと笑みを浮かべてみせる。それに釣られたのか、彼の緊張は少し緩んだ。

「あのね。ママがいなくなったの」
「そう。ママがいなくなったんだね。ここにはママと二人で来たの?」
「ううん? 赤ちゃんと三人だよ!」

 自分が迷子になったという意識はないらしい。この年齢にはありがちだ。確かに彼から見れば、いなくなったのはママのほうなのだから。

「そうなんだね。じゃあ、一緒に探してもいいかな? 私は由依、って言うの。僕のお名前を教えてくれる?」

 元気良く頷くと男の子は片手を広げ突き出しながら答える。

「僕、陽向(ひなた)! 五才!」
「陽向君、だね。教えてくれてありがとう」

 由依が陽向に笑いかけていると、後ろから声が聞こえた。

「由依? 何かあった?」
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