侯爵夫人の復讐

 翌朝、デリーの悲鳴じみた声で屋敷中が大騒ぎになった。

「何だこれはー!!!」


 駆けつけた義両親と使用人たちはデリーの顔を見て仰天した。
 デリーはまるで風船のようにぷっくりと顔が膨れ上がっていたのだ。
 それはさながら醜い獣のようだった。


「まあ! デリー、どうしちゃったの?」
「おい、化け物みたいな顔になってるぞ」

 義両親の声にデリーは憤慨し、大声で叫ぶ。


「おい、何とかしろ! 医者を呼べ! こんな顔では外に出られないじゃないか!」

 使用人たちは「はい、ただいま!」と言って慌てて駆けていく。
 その様子をキルアは遠目で見ていた。


「くそっ、今日は大事な客が来るというのに」


 キルアは遠くで夫を見つめながら冷めた表情で呟く。


「そうよね。愛人が来る日だものね」


 デリーにとってキルアはお飾りの妻だ。
 キルアと結婚した理由は、彼女が両親から莫大な遺産を受け継いだからだ。
 よって、いずれ捨てるつもりなのか、デリーはキルアと夜をともにしない。
 その代わりに好みの体型の愛人を持つ。


 実は初夜にキルアがデリーを拒絶したことが原因だった。
 月の物が来ているので今夜は無理であると答えたら、なぜそうならないように事前に準備しなかったのかとデリーは激怒した。

 月の物を事前にどう準備しろというのか。
 キルアはただ呆れたが、デリーはいつもこう言った。


「俺の恋人はいつも俺に合わせてくれる。お前もそうすべきだ」


 結局、初夜に女を抱けなかったデリーは翌日に愛人と過ごした。
 それからというもの、デリーはキルアに家の仕事だけさせて、自身は愛人と過ごすようになったのである。


 それにしても。
 今日はせっかく愛人が来るというのに、醜い顔をしていては会うこともできないだろう。

 医師の診察によると、デリーの顔の腫れはしばらく続くということだった。
 原因は花瓶に生けられた花だ。
 その花を飾ったのは昨夜キルアを出来損ないと言った使用人だった。


「お許しください、旦那さま! 私は知らなかったのです。旦那さまがあの花に敏感であることを」
「黙れ! お前のせいで予定がめちゃくちゃだ。お前を鞭打ちにしてやる」
「ああっ! お許しを! 旦那さま!」

 使用人はデリーに連れていかれた。
 他の使用人たちはひそひそと話す。


「私たちも知らなかったわ」
「よかった。昨日の旦那さまのお部屋の担当じゃなくて」


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