壊れてしまった宝物
自分よりも大切で、どんなものにも代えられない宝物がいくつあるだろうか?

二十三歳になったばかりの木下理沙(きのしたりさ)は、仕事が終わった後、急いで自転車を走らせる。仕事で疲れているというのに、その顔には笑みがあった。

「お迎え行って、その後は牛乳と洗剤が切れちゃったから買い物もしないとね」

家に帰ってからのことも考えながら、理沙は自転車を走らせる。予定を考えてもなかなかうまく予定通りに進まないのが現状だが、計画や予定を立てるのが好きな性格のため、こうして考えてしまう。

理沙は自転車を止める。そこは保育園の前だった。お迎えラッシュの時間のため、保育士と母親が話す姿が多くあり、庭では母親たちが話をしている隙を見て子どもたちが遊具で遊んでいる。

そんな姿をチラリと見た後、理沙も自分の子どもを迎えに教室まで向かった。年中の子どもたちがいるうさぎ組の教室の前に行くと、教室の中で絵本を読み聞かせていた保育士が理沙に気付き、理沙の息子である空(そら)に声をかけた。
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