壊れてしまった宝物
「お母さん!」

すぐに空は教室のドアを開け、理沙に抱き付いてくる。理沙は「おかえり」と空の頭を撫でた後、うさぎ組の担任を務めている志村律(しむらりつ)の方を見る。律は、少し癖っ毛の髪をマッシュショートにした男性保育士である。可愛らしい顔立ちのため、母親たちから密かに人気がある存在だ。

「先生、今日もありがとうございました」

理沙が頭を下げると、律は「いえいえ。今日も空くん、お利口さんでしたよ」と今日一日の空の様子を教えてくれる。その間、空は遊具で友達と遊ぶことはなく、ジッと理沙のそばにいるのだ。そんな空に、律は時折り話しかける。

「今日は折り紙でいっぱい遊んだね。空くん、すごく折り紙上手なんですよ。折り鶴がクラスの中で一番上手で、他の子にも教えてあげてて」

「そうなの?偉いね、空」

理沙と律に褒められ、空は得意げに笑う。一日の様子を聞いた後は、バイバイの挨拶の時間だ。律は空と目線を合わせ、二人は手を握る。
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