壊れてしまった宝物
「すみません!遅くなってしまって……」

息を切らせながら、理沙は保育園のうさぎ組のドアを開ける。教室の中には律と空しかおらず、律は空と折り紙をしているところだった。

「お疲れ様です。空くん、お母さんが来たよ」

「お母さん!」

律は空に笑いかけ、空は荷物を持って理沙へと駆け寄る。理沙が空を抱き締めていると、律に声をかけられた。

「今日はお仕事、いつも以上に大変だったんですね」

「はい。まさか、あんなトラブルが帰る間際に起きてしまうなんて思っていなくて……。延長していただいて、本当に助かりました。ありがとうございます」

理沙がペコペコと頭を下げていると、大きな音が響く。空のお腹の音だった。空が理沙の手を引く。

「お母さん。お腹空いた〜」

「そうだね。すぐにお家に帰ってご飯にしようか」

律から空の今日の様子を聞き、バイバイの挨拶をする。いつもならこれで保育園から帰るのだが、今日は「あの」の引き止められてしまった。
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