追放予定(希望)の悪役令嬢に転生したので、悪役らしく物語を支配する。
「え、そう……なの? あ、ロア様はあげられないんだけど」

 そういえばクロエもロア様の婚約者候補だったと思い出し、慌てる私に、

「どんな理由があれ、人前であってもなくてもリティカ様に難癖つけてくるような男なんて死んでも願い下げです」

 どキッパリとクロエは言い切る。
 なんだろうか、この迫力。若干既視感がある。

「あとロア様もいりませんよ? 私は私だけを愛してくれるヒトがいいので」

 側妃とかないわとクロエはカラカラと笑う。

「……ロア様はとってもお優しいのよ」

 ロア様の隣はライラちゃんのものになるのだから正妃の座は確かにあげられないし、即位後も側妃は持たずに2人で仲良くして欲しいとは思っているけれど、こうもあっさり拒否されるとロア様推しの身としてはちょっと面白くなかったりもする。
 むぅと頬を膨らませる私に、

「相変わらず、リティカ様はロア様がお好きですねー。未来の王太子ご夫妻の仲が睦まじいようで良き良きですわ〜」

 ふふっとクロエはからかうような視線を寄越す。

「もうキスの一つくらいしました? なんかこうキュンキュンするようなエピソードないんですか!?」

 食い気味に私の恋愛事情を聞き出そうとする。

「なっ! そんな事するわけ」

 ないと言いかけ、家出した夜の事を急に思い出してしまった。

「〜〜〜----ない、ないったらないの!」

「うわぁ、説得力な」

 いいんですよ、婚約者なんだから既成事実作っても、だなんて可愛い顔をしてなんて事を言い出すのこの子はっ!! と熱の引かない頬を押さえながら、

「私の事はいいのです!!」

 若干涙目に訴える。

「リティカ様が可愛い過ぎる。はぁ、こんな可愛い生き物揶揄う一択でしょう」

 イキイキしているクロエに敵う気がしなくて、私はクロエの追求が終わるまで膝を抱えて耐えるしかなかったのだった。

「……この2人じゃないにしてもクロエは好きな人とかいないの?」

 クロエとの攻防をなんとか乗り切った私は改めてクロエに尋ねる。

「それはリティカ様以外で、でしょうか?」

「うん、私もクロエは大事な友人だと思ってるけども。もう少しこう、恋愛的な意味で」

 私の事を聞き出そうとしたのだから、ちゃんと答えなさいと命じれば、

「そうですねぇ、個人的にはカーティス様推しですわ」

 と意外な答えが返ってきた。

「はっ? 待って、うちのお父様?」

 うちのお父様はもうすぐ四十なんだけど。まぁ全くそう見えないので、イケメンっていつ衰えるんだろうと不思議で仕方ない。

「ずっと一途に妻を愛し続けるだなんて、超萌える。あと影の実力者ってところがたまらなく好きですね。妄想が捗る」

「確かに独身だけども、歳の差考えて。あと同い年の継母とか絶対嫌なんだけど」

 いつかお父様が再婚される可能性は否定できないけれど、クロエじゃないでしょと断固拒否の私に。

「じゃあ妥協してセザール様」

 クロエは見た目はタイプです、見た目はと2度言った。

「妥協でお兄様はあげないわよ!」

「文句多いですね。あーでも一推しはセドきゅんですね。リティカ様を想う騎士道精神。許されざる恋に身を焦がす、一途な従者! 沼落ち確、ガチ恋女子量産! いい、売れる」

 セドきゅんの概念グッズはーなどと話が盛大に脱線し始めたので、

「それは新しい小説の設定か何かかしら? というかクロエ、戻って来て」

 身内が喰い物にされる前に私はストップをかけた。
 クロエは実は転生者なのでは!? とたまに疑いたくなるのだけれど、

「ふふ、リティカ様と出会ってからすっごく楽しい。なので、まだ恋はいいかな」

 多分私の影響とクロエの本来の素質の問題なので、楽しいなら良しと流すことにした。
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