傾国の落日~後宮のアザミは復讐の棘を孕む
 巨大な檜の桶には満々とお湯がたたえられ、水面には白い花びらが覆うほど浮いていた。白い湯気が立ち込め、花びらからは甘ったるい匂いが浴室中に立ち上っている。
 素裸にされた紫紅は湯舟に沈められ、無表情の宦官たちによって身体を洗われる。白い肌の上を、お湯の雫が粒になり、滑るように零れ落ちていくのを、紫紅は自身が夢の中にいるような心持ちでただ見下ろしていた。
 ――夢なら、早く覚めてほしい。
 すべてが夢で、目覚めたらあの、二人の寝室で会ってほしい。
 伯祥のあの、温かい腕の中であってほしい。

 これから、伯祥の父親に抱かれなければならないなんて、そんなことは――
 すべて、夢ならば――
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